なんでもテイスティング人生。

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スペシャル番外編「石井もと子さんに聞く」

今号のリアルワインガイドでは徳丸編集長の重傷の影響もあり、

連載がお休みとなってしまいました。(石井さん、本当に申し訳ありませんでした…)

というわけで、掲載予定だった原稿を、ここで公開発信させていただきたいと思います。

日本ワインを取り上げたからと言って得にもならない時代から、応援の旗を振り続け、

「日本ワインの母」と敬称させていただきたい石井もと子さんにお話を伺いました。

飲み手と作り手で完結してしまう風潮を近頃、個人的に感じ、

そんな日本ワインについて、第三者的な視点からお話をいただける方に

お聞きしたいという意図から依頼させていただきました。

含蓄ある貴重なコメントを、飲み手はもちろん、

日本ワインに様々な形で関わる皆さんに、ぜひお読みいただければと思います。



いいぞ日本ワイン!~石井もと子さんに聞く~

text by 福田克宏

grey スペシャル番外編「石井もと子さんに聞く」

今年も日本ワインが人気を集めています。素直にうれしい!その一方で、やや過熱した状況に、大きな課題を見過ごしているのではないかという懸念が、どうしても残る。生産者と日本ワインファンの間だけの、盲目的で一時的なブームになってしまわないか。それでは足元を固めた次の発展につながらないのではないか。いよいよ大きな流れになりつつあるからこそ、方向を見誤ってほしくない。今年は、第三者的な位置の方からお話をお伺いしたいと思います。

というわけで、石井もと子さんにお願いしました。(いきなり頂上作戦!)ワイナリーガイドの絶対的バイブルにしてロングセラー『日本のワイナリーへいこう』を2008年から継続して発行。生産者と消費者をつなぐ、あるいは流通との商談の場を設けるイベントの開催を通じて日本ワインに光をあて続け、現在の姿に至るはるか以前から、日本ワインを叱咤激励しながら大きな愛情を持ってサポートされてきました。輸入ワインを扱うワインコンサルタント、ジャーナリスト、日本ワインを愛する会理事、日本ワイナリー協会顧問という、多面的かつ統合的な視点から語っていただきました。

 

■そもそも、なぜ日本ワインに携わることに?

もともとワインの仕事のなかで国産ワインも扱っていたんですが、80年代当時は、まだワインスクールもなくて、サントリーさんのスクールもカクテルが中心で、つくり手に聞くのが一番早いという状況でした。仕事の関係を通じて、つくり手の飲み会に参加させてもらったり、お付き合いはありました。その後、80年代後半に伸び盛りのカリフォルニアへワインづくりを学びに行って。とにかくサニテーションにうるさかったので、帰国して、あらためて日本のワイナリーへ行ってみると「なんて汚いんだろう!」って(笑)。品質も「アレっ?」という感じで。輸入ワインに比べて日本のワインはまだ劣っているなとは思っていても、そんなにギャップは感じてなかったのですが、それで、しばらくタッチしなかったんですよね。

で、『ワイナリーへ行こう』を出し始めるようになってから、ある程度、まとめて回るようになって。浅井昭吾さん(ウスケボーイズの父、元シャトーメルシャン勝沼ワイナリー工場長)が亡くなられて、精神的な支柱となるような方が出ていない。それでも若い子たちのやる気は継続していて、いいワインも出来てきたから、それを広げる、知ってもらう仕事はしたほうがいいなと。

2015年からは日本ワイナリー協会の顧問を引き受けて。それで仕事として向き合うようになりました。これまでは皆さんと同じように応援団的な立場で好きなことばかりできたんですが、顧問を引き受けてからは、そうも言ってられなくなりましたね(苦笑)。顧問を引き受けた私の仕事は、底上げだと考えています。技術的な面などに、かなり差が出てきているから、その水準を上げるために協会としてのワークショップとか開催したり、ワイナリーの会員を増やすという活動もしています。私が入ってから、20社ぐらい増えたんですよ(笑)。(※参考:これで団体加入を含めると161社、8割弱の加入率に)

 

■日本ワインの課題について、いかがですか?

海外ではもう、まったく技術の無い人がワインをつくれる時代ではないんですよね。技術は無いけどつくりたいっていう人は、お金を出して人を雇ってつくっている。逆に日本は農業としての補助金が出るから、ワインが主眼ではない人たちもワインをつくっていて。そうすると、ますます技術の格差が広がっていく。いまは、ある程度トップクラスのつくり手にしても、これはソムリエさんにしてもそうなんですけど、本当の世界のトップのワインを飲んだことが無い人が多い。というか、飲めない。高くて。80年代から仕事をしている人や、かろうじて90年代くらいに入ってきた人だと、たとえばボルドーのトップや、ブルゴーニュのグランクリュを、ちょっと頑張れば飲めた。ロマネコンティにしても、何人かでお金を出しあって飲めたから、頂点の味っていうのはこうなんだっていうのがわかった。いまの人たちはその経験が無くて、なんとなくこのへんのところに基準があって、そして自分のワインがあるっていう状態。知らないから自信を持っていると感じることもあります。

もちろん飲んでないとつくれないというわけではないけれど、やっぱり広い世界の端から端を見て、自分のポジショニングがどこなのか、どういうスタイルを目指すのか、っていうのをつかんで欲しいなと思うんです。じゃないと、方向性を見失うんじゃないかなって。

醸造にしても「自然につくりたい」とだけ言っていても…と。みんながみんな通常のつくりをする必要はないけれども、まず通常のつくりをやって、それが出来たうえで「私はこのスタイルでいきます」っていうのならいいと思うんですけど、いまは知らないでやっている人たちがいて、それが結構もてはやされてしまっている。「信念を持ってやっている」というけれども、その「信念」をつくりあげるあいだに、何を見ているかが大事。日本ワインのブームがはじけるときって、「あれっ?これ、やっぱり違うんじゃない?」と目覚めたときが…怖いですね。

 

■生産本数の少なさもあって、熱狂的な支持者のあいだで瞬時に完売してしまうという、ファンクラブのグッズ的なワインもありますよね。レアだから=美味しいかというと、そうでもないと感じるのですが?

そういうワインって世界中のどこにでもあると思うんですよ。で、それだけが良いワインかというと、必ずしもそうではない。純粋にワインとして、というよりも、付加価値で売れているという面がある。飲み手もそうなんだけど、中間の飲食店、酒販店がもうちょっと理解力を持たないといけない。美味しいワイン、良いワインは他にたくさんあるのに・・・ウワサを聞くと飲みたくなっちゃう気持ちはわかりますけど(苦笑)。ただ、これまでだったら十分売れていたのかもしれないけれど、今後ワイナリーの数が増えてきて、価格的にも、それが1本3,000円ということになってくると、売れ残るところもでてくるでしょうね。

自然のなかでワインをつくりたいといっても、綺麗ごとだけじゃつくれないよっていうか、もっともっとシリアスに考える必要がある。実はこうなんだよって教えるところがないからなんでしょうね。各地に生産者になるための養成機関が出来ていますが、そこを出た人の生活が成り立つところまでは見ないわけじゃないですか。1年だけとか、座学が中心だったりとか。やっぱり経験がとても重要。南半球のワイナリーでも仕込みをすれば経験を増やせるからと「2週間でも3週間でもいいから行ってきたら?紹介するから」と声をかけてみても、あれこれ理由が返ってきて、結局行くのは半分いるかいないか。たしかに個人のワイナリーだと不在に出来ないだろうし、企業のワイナリーだと社内規定をクリアできず出してもらえないというのもある…。とにかく他の国の生産者と比べてあまりにも経験値が低い。ニューワールドが急に伸びたひとつの理由は、他の産地にも行って年に2回はやるぞっていう人がたくさんいて、どんどん経験値を積んだことですよね。

 

■日本ワインの個性や魅力の表現には「凛とした」「大和撫子のような」「控えめな」というものがありますが、やはり抽象的。表現や定義を探る議論も増えていけばいいと思うんですが、いかがですか?

先日、ドメーヌ・アルマン・ルソーのエリックさんにお話をお伺いする機会があって。「ジュヴレ・シャンベルタンにはパワーを求められるけれど、僕はそれは好きじゃない。フィネスとエレガント、そして水のようにシームレス。物足りないという人もいるけれど、それがうちのスタイルなんだ」と。あっ、水っていう表現を使うんだなって。日本では誰かが「ウォータリー」なんていう直接的な訳をしちゃったからマイナスな評価に受け取られますが、日本酒でいうところの「水の如し」とは意味や評価が違うじゃないですか。なにかひとつが突出しているわけじゃないけれど、すーっと入っていって、染み渡って、ああ美味しいっていう、そんなスタイルのワインが日本にはできるんじゃないかなと思いますね。パワフルではなくて、邪魔をしない、パートナー的な。そういったことを追求したり、日本の土地の個性を考えていってもいいんじゃないかなと。

ブルゴーニュのように、ここからここはこうという、地理的に大くくりにできる傾向というものが、入り組んだ地形の日本ではなかなか無い。だから特徴を捕らえづらい。そこにつくり手の意志が強く働いてきているから、どうしても、つくり手の個性のほうが表に出てきてしまう。生産量もまだ少ないから、勝沼の特徴はこう、余市の特徴はこうという、土地の個性がワインにまだ出てきていないし、そこは時間がかかると思うので、「ここの地形は何万年前の・・・」というよりも、つくり手の個性が表に出ても、日本のワインが認められていくほうが今はいいのかなというのが正直ありますね。

grey スペシャル番外編「石井もと子さんに聞く」

■ライバル関係のなかでも、垣根を超えて力を合わせていく必要がある。

私が日本ワイナリー協会の顧問を引き受けた理由のひとつは、例のワイン法ってありますよね、果実酒等の製法品質表示基準。あれが議論される際に、いろんな団体が意見しましたけど、結局まとまりきれなかった。生産者を代表したひとつの声というのは無かったんですよね。「日本ワイナリー協会は加盟率が低いので、意見は聞きますが、総意としては受け取れない」といった感じ。この状況で、なんてバカらしいことになっているんだろうと。

海外の生産者協会の仕事もしているんですが、税の一部が還元されたり活動費にまわるからという動機もありますが、まず、ワイナリーをつくったら、みんな協会に入る。活動をするかしないかは別にしてね。日本の場合は、これまでは大手が中心となって活動してきましたが今は変わってきている。まだまだワイナリーのなかには大手に対して感情的なところもあって。たしかに、歴史的にいろいろな事があったと、それはわかるんですけど、そんなことを言っている時代じゃない。一致団結してやれるところはやっていかないと。酒税に関しても、日本酒の酒税は落としてワインは上げるという話がありますが、それも、もう少し協会のほうに力があれば期間的な猶予を持てるとかあるんでしょうけど、意地を張りあっていると、まとまらないし、どんどん苦しい状況になってしまう。皆がおなじ方向を向くのは難しいと思いますが、この点ではまとまろうよとか、ワークショップなどの取り組みを通じて、少しづつ、ひとつになっていけばいいなと思っています。

 

■最後に。

質の問題はありますよね。急にワインがどんどん出来ちゃうようになったので、法整備も追いついていない。業界側の整備もできていない。百花繚乱になってくれればいいけれど、そのまま終わるんじゃないかっていう心配もしています。いまのブームを乗り切ったら、なんとかなると思うんですよ。ここからあと10年。まずは、乗り切ること、でしょうね。

 

文責・福田克宏


takoyakibouzu • 2017/03/23


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