「甲州のアロマ」by王禅寺善明

grey 「甲州のアロマ」by王禅寺善明

 

富永敬俊(とみながたかとし)という男がいたことをご存知だろうか。

ごく一部の方を除いては知らないと答えるはずである。

無理もないことで、富永はフランスのボルドーを活動の拠点にしていた。

富永はワインの香りの研究者で、ヨーロッパ、とくにフランスにおいて、

これからの活躍を期待される注目の日本人だった。

富永が注目されたのは、ボルドー第二大学醸造学部で学位を得た博士であり、

ワインの分野で「ぶどう品種の特徴香を決定づけるアロマの発現メカニズム」を

世界で初めて解明したからである。

しかし、富永は暮らしていたボルドーの自宅で突然、この世を去った。

2008年6月8日のことで、年齢は53歳、心臓発作であった。

富永はボルドー第二大学醸造学部で博士となった、ただひとりの日本人である。

富永が歩んだのはあらかじめ用意された道ではなく、無限に続くことを信じ、

その先にある栄光を夢見ることによって拓かれた道であった。

富永に続く日本人は、まだ現れていない。 <はじめに、より>

 

 

この本読みたいなあ・・・と思っていたところ、

ちょうど年末にヴィノテークの編集者の方にいただいてしまい(感謝!)

 

「すぐにブログで感想を書かないと!」と思っていたのですが、

スミマセン、こんな時期になってしまいました・・・(反省)

 

次回開催(2月11日)のジャパン・ワイン・コンクールが

甲州部門であるということもあってあらためて読み返してみました。

 

いや、この本、とても感動的で、

読み進めるうちに、すこし熱くなるところもあります。

 

ボルドーでワインの香りに人生を捧げた富永先生の伝記なのですが、

いまをときめく活躍中の人たちが登場し、富永さんと交流する様子が記述されています。

 

メルシャンの味村さん、田崎真也さん、アサヒヤワインセラーの阿出川さん、

マンズワインの島崎さん、六本木は祥瑞の勝山さん・・・

 

日本の枠を飛び出さんと苦悩格闘する富永さんと若き日の皆さんの、

どこか青春の香りがする素敵なエピソードも多数あります。

 

僕がワインというものを知ったのが3年前。

 

当時のワイン業界の様子もまったく知りませんし、

もちろん名前を挙げた皆さんの当時の姿を知る由もありません。

 

なので、当時のエピソードを読むと、ああ、その時代の空気を

少しでも吸ってみたかったなと、なんだかすごく悔しい気持ちにもなります。

 

富永さんといえば、ご存知のように、甲州のアロマのなかに3MHという

ソーヴィニヨンブランとおなじ香りを持つ成分が存在することを突き止めた人で、

 

ご自身の著書「きいろの香り」にも発見にまつわるエピソードがありますが、

こちらの本のほうが、より具体的に描かれていて、ドラマを見るように感じられます。

 

研究の成果とフィードバックは大きな影響を日本にもたらし、

「しょせん甲州」といわれた葡萄に、大きな可能性を示し、

その大発見はメルシャンの「きいろ香」というワインに結実します。

 

自分の信念を貫く頑固なまでの情熱を持つ理論科学者としての一面と、

小鳥を愛し、音楽を楽しみ、感性の世界に遊ぶ感覚をあわせもつ富永さん。

 

「ワインとはポエムと科学の融合である」

という一言には、まさに、生き様と哲学が込められているような気がします。

 

最後に、その棺には、

ソーヴィニヨンブランの枝が納められたそうです。

 

その後、盟友だったメルシャンの斎藤さん、味村さんは

新ヴィンテージ「きいろ香2008」を発表。

 

その席上でお二人が見据える視線を、

僕も見てみたかった気がします。

 

ワイン文化の中心ボルドーから、

故郷でありワイン後進国である”日本”に残してくれたものとは、

 

技術的な功績以上に、

甲州という葡萄で世界に胸を張っていいんだという

“誇り”だったのかもしれないと思ったりもします。

 

そしてそれは、富永さんのボルドーでの戦いの成果とも

重なるような気もしています。

 

というのが僕の感じたところですが、

とにかく、その時代のその空気を、

 

ほんの少しかもしれないですが、

追体験できる素晴らしい本だと思います。

 

日本ワインに、そして甲州ワインを知るうえで、

社交辞令でもなんでもなくて、本当におススメしたい一冊です。

 

 



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